おせちの田作りにはどんな意味がある?昔の農業との関係
おせち料理の田作りには、米や穀物が豊かに実る「五穀豊穣(ごこくほうじょう)」の願いが込められています。材料は主に小さなカタクチイワシです。昔、イワシが田畑の肥料に使われていたことから「田作り」と呼ばれるようになった、という由来がよく知られています。海の魚と田んぼが結び付いた、正月ならではの縁起物です。
田作りは豊作を願うおせち料理
田作りは、一年の豊かな実りを願う料理です。「五穀豊穣」とは、米をはじめとする穀物が十分に実り、たくさん収穫できることをいいます。食べることで収穫が増えるという意味ではなく、新しい年も食べ物に恵まれるようにという願いを料理に託しています。
農林水産省も、田作りの主な材料であるカタクチイワシがかつて農作物の肥料に使われ、豊作への願いからおせちの縁起物になったと紹介しています。
田作りは、黒豆や数の子などと並ぶ「祝い肴(いわいざかな)」の一つです。祝い肴とは、正月を祝うために用意する基本的な料理のこと。どの品を組み合わせるかには地域や家庭による違いがあります。
昔の農業ではイワシが肥料として使われていた
今は魚を食材として思い浮かべることが多いですが、昔は農業にも利用していました。とくに江戸時代には、イワシなどの魚を乾燥させた「干鰯(ほしか)」が、田畑にまく肥料として売買されていました。
山川出版社の歴史辞典によると、干鰯は畑の土の力を保つために用いられ、綿や菜種の栽培に広く使われました。地域によっては稲作にも利用されています。魚がとれる海沿いの地域から、作物を育てる農村へ運ばれていたのです。
乾燥させた魚を田畑に使い、作物の実りを支えていたという暮らしが、「田を作る」という料理名と結び付いています。田作りに込められた豊作の願いは、このような昔の農業の様子を知ると理解しやすくなります。
「田作り」という名前の由来は一つだけ?
もっともよく知られるのは、魚を田畑の肥料にしたため「田作り」と呼ばれるようになったという説です。静岡県水産・海洋技術研究所や紀文食品も、この由来を紹介しています。
ただし、名前の由来には別の説明もあります。岡山県立図書館が複数の辞典を調べた記録には、田植えのときに食べた祝いの料理だったという説や、豊作を願う縁起のよい名前だったという説、田の神さまへのお供え物に関係するという説がまとめられています。
どの説も田んぼや農作業とのつながりがあります。肥料に使われたという説明は広く知られていますが、それだけが確定した語源と決まっているわけではありません。
別名の「ごまめ」と「五万米」にはどんな意味がある?
田作りは「ごまめ」とも呼ばれます。正月の縁起を表すときには、「五万米」という漢字を当てることがあります。たくさんの米が収穫できるようにという願いを、文字にも込めた表し方です。
イワシを肥料にしたところ米が五万俵もとれた、という言い伝えが紹介されることもあります。ただし、これは豊作にまつわる逸話であり、実際の収穫量を示す記録として扱うものではありません。
また、「五万米」という文字が「ごまめ」という呼び名そのものの語源とは限りません。語源辞典では、この表記を縁起のよい当て字として説明しています。料理の名前と、あとから重ねられたおめでたい意味を分けて考えると分かりやすいでしょう。
田作りはどんな魚で、どうやって作る?
田作りには、主にカタクチイワシの小さな魚を干した「ごまめ」を使います。静岡県水産・海洋技術研究所によると、ごまめは魚を生のまま干したもので、一般的な煮干しは塩ゆでしてから乾燥させるという違いがあります。
おせちの田作りは、ごまめを弱火で焦がさないように炒り、砂糖・しょうゆ・みりんなどを煮詰めた甘辛いたれを絡めて作ります。白ごまを振ることもあります。小さい魚を頭から尾まで丸ごと味わう、香ばしい料理です。
料理としての田作りを食べるときに、昔の田んぼでイワシが肥料になっていたことを思い出すと、豊作を願う理由が見えてきます。海の恵みへの感謝と、田畑の実りへの願いが、一皿につながっているのです。