「確信犯」の本来の意味は?よくある誤用との違い
「確信犯(かくしんはん)」の本来の意味は、政治的・宗教的・道徳的な信念に基づき、自分では正しいことだと確信して行う犯罪や、その行為をする人です。「悪いと分かっているのに、わざとする人」という意味でよく使われますが、もともとの意味とは違います。ただし、現在はその使い方も国語辞典に載っています。二つの意味の違いを知ると、誤解されにくい言葉を選べます。
「確信犯」の本来の意味は、自分では正しいと信じて行う犯罪
本来の「確信犯」は、強い信念や使命感から、自分の行為は正しい、あるいは行うべきことだと考えて犯す犯罪を指します。政治的な考えや宗教上の教え、道徳的な信念が動機となる場合です。
例えば、自分の信念を守るためなら、法律で禁止されている行為であっても正しいと考えて実行する、という場合が考えられます。国語辞典では、思想犯や政治犯などが例として挙げられています。ただし、政治的な動機のある行為がすべて確信犯になるというわけではありません。
この言葉はもともと法律学で使われた概念です。辞書編集者の神永曉さんは、ドイツの法哲学者・刑法学者グスタフ・ラートブルフが提唱した考え方で、日本でも戦前から議論されてきたと説明しています。
「悪いと分かってわざとする」とは何が違う?
日常会話では、「注意されると知っていて、わざと同じことをする人」を「あれは確信犯だ」と呼ぶことがあります。
しかし、本来の意味とこの使い方では、行動する本人が何を正しいと思っているかが違います。
- 本来の意味:自分の信念では「正しい行為だ」「やるべきことだ」と考えて行う犯罪。
- 広まった意味:「よくないことだ」と分かっていながら、意図的にその行為をすること。
例えば、「遅刻すると分かっていて、わざと出発を遅らせた。確信犯だ」という言い方は、広まった意味での使い方です。そこに政治的・宗教的な信念などは含まれません。
つまり、「わざとやった」というだけでは、本来の意味での確信犯とは言えません。
法律違反だと知っていたら、確信犯ではないの?
ここで注意したいのは、法律に反することを知っているかどうかと、自分の信念では正しいと考えているかどうかは別だという点です。
本来の確信犯も、法律で禁じられていると知りながら行動する場合があります。それでも本人は、法律よりも自分が信じる道徳や理念に従うことが正しい、と考えているのです。
「確信犯」は、法律違反に気づいていない人を指す言葉ではありません。また、本人が正しいと信じているからといって、法律上その行為が許されるという意味でもありません。
文化庁の調査では、どちらの意味が多かった?
文化庁の「国語に関する世論調査」では、「そんなことをするなんて確信犯だ」という例文を示し、どちらの意味だと思うかを尋ねています。
- 平成14年度(2002年度):本来の「信念に基づいて正しいと信じて行う」という意味を選んだ人は16.4%、「悪いと分かって行う」を選んだ人は57.6%でした。
- 平成27年度(2015年度):本来の意味を選んだ人は17.0%、「悪いと分かって行う」を選んだ人は69.4%でした。
この2回の調査では、「悪いと分かって行う」という意味を選ぶ割合が増えています。ほかに「両方」や「分からない」という回答もあるため、二つの数値の合計が100%になるわけではありません。
数字はそれぞれの調査当時の結果です。現在のすべての人の理解を示したものではありませんが、本来とは異なる使い方が広く浸透してきたことが分かります。
今の国語辞典では「誤用」とされている?
「悪いと知りながら、わざとする」という意味は、もともと誤用とされてきました。しかし、今では両方の意味を載せる辞書もあります。
小学館の『デジタル大辞泉』では、最初に本来の意味を挙げ、次に「悪いことだと分かっていながら行う行為や犯罪」という転じた意味を掲載しています。『精選版 日本国語大辞典』にも、本来の法律上の意味に加えて、トラブルになると分かっていて何かを行うという俗な意味が載っています。
そのため、現在の使い方をすべて間違いと言い切るのは適切ではありません。一方で、同じ言葉で違う意味を思い浮かべる人がいる以上、伝える内容によっては誤解を招くことがあります。
どう言い換えると誤解されにくい?
仕事の文章や説明では、言いたい内容をそのまま表す言葉を選ぶと伝わりやすくなります。
- 信念によって法に反する行為をした場合:「自分の政治的信念に基づき、正しいと考えて行った犯罪」と説明する。
- 悪いと知ってやった場合:「悪いと分かっていながら、わざと行った」と言う。
- うっかりではないと伝えたい場合:「故意に」「意図的に」と言い換える。
- 相手の意図がまだ分からない場合:「わざとだったかどうかは分からない」とし、決めつけない。
「故意に」「意図的に」は、その行為が偶然ではなく、本人の意思によるものだと伝える表現です。ただし、それだけで政治的・宗教的な信念があることまでは示しません。
「確信犯」の本来の意味では、本人が自分の行為を正しいと信じていることが重要です。「悪いと知ってわざとする」という広まった意味との違いを意識すれば、場面に合う言葉を選びやすくなります。