「推敲」の語源は?文章を練るという意味になった由来

言葉・日本語
ソボチエ編集部

「推敲(すいこう)」は、詩や文章をよりよくするために、言葉や表現を何度も考え、練り直すことです。

語源は、中国・唐の詩人、賈島(かとう)が「僧が月夜の門を押す」と書くか、「門をたたく」と書くか迷った故事にあります。「推」は押すこと、「敲」はたたくこと。一つの言葉をじっくり選ぶ姿から、文章を練り直すことを「推敲」と呼ぶようになりました。

「推敲」は文章の言葉や表現を練り直すこと

小学館の『デジタル大辞泉』や『精選版 日本国語大辞典』では、「推敲」を、詩や文章の字句や表現を十分に考え、練り直す意味で説明しています。

例えば、作文に「遠足は楽しかった」と書いたあと、どんなところが楽しかったのかを思い出して、「友達と山の頂上まで歩いたことが、いちばん楽しかった」と直す場合です。伝えたいことが具体的になるよう、言葉を選び直しています。

推敲は、誤字を見つけるだけの作業ではありません。読む人に気持ちや場面が伝わるように、言葉の選び方、文の長さ、説明する順番などを見直すことも含みます。

「推」と「敲」はそれぞれどんな意味?

「推敲」という二つの漢字は、もともと異なる動作を表しています。

  • 推(すい・おす):門などを手で押すこと。
  • 敲(こう・たたく):門などを手でたたくこと。

「門を押す」と書けば、門に手を当てて開こうとする姿が浮かびます。「門をたたく」と書けば、訪ねてきた人が戸をたたく様子や、その音を想像できます。

どちらの動作を選ぶかで、同じ月夜の場面でも印象が変わります。この一文字を選び直そうとした話が、「推敲」という言葉につながっています。

『唐詩紀事』の故事:賈島と韓愈の出会い

よく知られている出典は、『唐詩紀事(とうしきじ)』巻四十「賈島」の項です。『唐詩紀事』は、宋の時代に編まれた、唐の詩人と作品にまつわる話を集めた書物です。

賈島はロバに乗りながら詩を考えていた

あるとき、詩人の賈島は、試験を受けるために都へやって来ました。ロバに乗って道を進みながら詩を考え、「僧推月下門(僧は推す、月下の門)」という句を思いつきます。

しかし、僧が門を「推す(押す)」よりも、「敲く(たたく)」と表した方がよいのではないかと迷いました。

「押す」「たたく」の手ぶりを繰り返していた

賈島はロバの上で、門を押す手ぶりと、たたく手ぶりを繰り返しながら考え続けます。あまりに詩のことに夢中になっていたため、前から来た都の長官・韓愈(かんゆ)の一行に、うっかりぶつかってしまいました。

賈島は、なぜ周りを見ずに進んでしまったのか、事情を詳しく説明しました。

韓愈が「敲く」の方がよいと答えた

韓愈も詩や文章に通じた人物でした。賈島の話を聞くと、「敲」の字がよいと答えたと伝えられています。

『唐詩紀事』には「愈曰敲字佳矣」という言葉が記されています。韓愈が「敲の字がよい」と言った、という意味です。その後、二人は並んで進みながら、長く詩について話し合いました。

「推す」と「敲く」のどちらがふさわしいか、言葉を考え抜いたことから、詩や文章を練り直す行為を「推敲」と呼ぶようになったのです。

なぜ「押す」ではなく「たたく」が選ばれたの?

賈島の詩「題李凝幽居(だいりぎょうゆうきょ)」には、「鳥宿池辺樹、僧敲月下門」という句が伝わっています。鳥が池のほとりの木に宿り、僧が月明かりの下で門をたたく、という情景です。

「たたく」を使えば、静かな夜に門をたたく音が響く様子を思い浮かべられます。小学館の『故事成語を知る辞典』でも、韓愈が音の効果を意識したのではないかという解説が紹介されています。

ただし、『唐詩紀事』のこの場面には、韓愈が「敲」の方を選んだ詳しい理由までは書かれていません。音の効果は、詩の情景をもとにした解釈です。大切なのは、何を伝えたいかによって、一文字の選び方を考えるという姿勢です。

賈島と韓愈の出会いは本当にあったの?

「推敲」の由来として有名な話ですが、賈島と韓愈が実際にこのような出会い方をしたかどうかは、はっきりしていません。

大修館書店の「漢字文化資料館」では、賈島が都に来た時期と、韓愈が長官を務めていた時期が合わないため、この出来事をそのまま史実と考えるのは難しいと説明しています。

つまり、古い文献に残された詩作にまつわる故事として受け取るのが適切です。話が史実かどうかとは別に、言葉を選び直すことを「推敲」と呼ぶ由来として広く知られています。

「推敲する」はどんなときに使う?

作文や手紙、発表原稿、仕事の文章などを見直し、より伝わりやすくしたいときに使います。

  • 作文:「書き終えた作文を推敲して、分かりにくいところを直した」
  • 手紙:「相手に気持ちが伝わるよう、お礼の手紙の言葉を何度も推敲した」
  • 仕事:「報告書の内容が正確に伝わるよう、表現を推敲してから提出した」
  • 詩:「言葉の響きを大切にして、一行ずつ推敲を重ねた」

「文章を推敲する」「推敲を重ねる」「推敲の余地がある」といった言い方もよく使われます。「推敲の余地がある」は、まだ言葉や表現を改善できるところがある、という意味です。

文章を推敲するときは、何を見直す?

賈島が一文字の違いにこだわったように、短い文章でも言葉の選び方によって読み手の受け取り方は変わります。書き終えたら、次のような点を確かめてみましょう。

  • 言葉:伝えたい意味に合った言葉を選んでいるか。
  • 具体性:「すごい」「よかった」だけでなく、何がどうだったのか伝わるか。
  • 文章の流れ:読む順番が自然で、途中で話が飛んでいないか。
  • 重複:同じことを何度も説明していないか。

例えば「みんながとても喜んでいました」という文は、その場の様子を伝えたいなら「発表が終わると、みんなが拍手してくれました」と直せます。ただし、元の出来事と違う内容を書き足さず、実際に伝えたいことに合わせて言葉を選びましょう。

「校正」「添削」「遂行」とはどう違う?

文章を直す言葉として「校正(こうせい)」「添削(てんさく)」もあります。また、「推敲」と同じ「すいこう」と読む「遂行」も、漢字を間違えないようにしたい言葉です。

  • 推敲:詩や文章の言葉や表現を、よりよくなるよう練り直すこと。
  • 校正:文章を照らし合わせたり、印刷前の原稿や刷り物を確認したりして、文字や体裁などの誤りを正すこと。
  • 添削:主に他人の作文や答案などに、言葉を加えたり削ったりして直すこと。
  • 遂行:任務や仕事などを、最後までやり遂げること。

例えば、自分の作文の表現を選び直すなら「推敲」、先生がその作文に手を入れて直すなら「添削」です。「任務をすいこうする」は文章を練る話ではないので、「任務を遂行する」と書きます。

「推敲」は、完成したつもりの文章でも、もっと適切な言葉がないかを考えることです。賈島が「推す」と「敲く」の一文字に迷った故事を思い浮かべると、意味も使い方も覚えやすくなります。

参考資料