「完璧」の語源は?「壁」ではなく「璧」と書く理由
「完璧(かんぺき)」は、欠点や不足がまったくなく、申し分のないことを意味します。正しい漢字は「完璧」で、「完壁」と書くのは誤りです。
「璧」は建物の壁ではなく、古代中国で大切にされた玉(たま)を表す漢字です。『史記(しき)』には、藺相如(りんしょうじょ)という人物が貴重な玉を傷つけずに守り、故国へ戻した故事が記されています。そこから「完璧」という言葉が生まれました。
「完璧」は欠点がまったくないという意味
小学館の『デジタル大辞泉』や日本漢字能力検定協会の「漢字ペディア」では、「完璧」を、欠点や足りないところがまったくないこと、完全で立派なことと説明しています。
例えば、時間内に仕上げた仕事を見直したところ、間違いや不足がなく、期待されていた内容がすべてそろっていたとします。そんな仕上がりを「完璧な出来」と表現できます。
「完璧な演技」「準備を完璧に整える」「完璧を期す」のように、ものの出来栄えや仕事の進め方など、さまざまな場面で使う言葉です。
「璧」と「壁」はどこが違う?
二つの字はよく似ていますが、意味も下の部分の形も違います。
- 璧(へき):下が「玉」。中央に穴のある、平たい輪の形の玉器や、美しい宝玉を表します。18画の漢字です。
- 壁(へき・かべ):下が「土」。建物のかべや、切り立った崖などを表します。16画の漢字です。
「完璧」の「璧」は、大切な宝玉を意味するため、下が「玉」の漢字を使います。家のかべを意味する「壁」では、故事と意味が合いません。
「璧」は「玉」と「辟(へき)」から、「壁」は「土」と「辟」からできた漢字であることも、漢字ペディアで確認できます。下の部分が「玉」なら完璧、土なら建物の壁と覚えると、間違えにくくなります。
似た例として「双璧(そうへき)」という言葉があります。もとは一対の宝玉のことで、現在は同じくらい優れた二人や二つのものを表します。ここでも「璧」は宝玉の意味です。
語源は『史記』の「和氏の璧」をめぐる故事
「完璧」の由来は、中国の歴史書『史記』の「廉頗藺相如列伝(れんぱりんしょうじょれつでん)」にあります。昔の中国で、趙(ちょう)と秦(しん)という二つの国が争っていた時代の話です。
秦の王が貴重な玉と十五の城を交換したいと言った
趙の王は、「和氏の璧(かしのたま)」と呼ばれる、たいへん貴重な宝玉を持っていました。これを知った強国・秦の王は、十五の城と交換したいと申し入れます。
しかし、趙の王たちは、秦が玉だけを受け取り、約束した城を渡さないのではないかと心配しました。
藺相如は「約束が守られなければ玉を持ち帰る」と約束した
そこで、趙の家臣である藺相如が使者を引き受けます。そして、秦が本当に城を渡すなら玉を置いてくるが、渡さないなら玉を無事に趙へ戻すと約束しました。
藺相如が秦へ行き、宝玉を差し出すと、秦の王は喜びました。しかし、約束の城を趙へ渡そうとする様子はありません。
藺相如は宝玉を取り戻し、ひそかに趙へ送り返した
藺相如は「玉に小さな傷があるので、お見せしましょう」と言い、いったん秦の王から玉を受け取ります。そして、秦が約束を守らないなら、柱にぶつけて玉を砕く覚悟だと伝えました。
その後、正式に宝玉を受け取るための準備に五日かかるという話になり、藺相如はその間に家来を使って、宝玉をひそかに趙へ送り返しました。こうして、大切な宝玉は傷つくことなく元の国へ戻ったのです。
この話は、『史記』のほか、台湾教育部の『成語典』に掲載された「完璧歸趙」の解説でも確認できます。
もともとの「完璧」は「璧を無事に守る」という意味だった
『史記』には、藺相如の言葉として「城不入、臣請完璧帰趙」という一節があります。城が趙に渡されないなら、璧を完全な状態で趙に持ち帰ろうという意味です。
ここでの「完」は「まっとうする、欠けたところのない状態にする」、「璧」は貴重な玉を指します。つまり、「璧を完(まっと)うして趙に帰る」という約束が、「完璧」の語源になったのです。
中国では、この故事をもとに「完璧帰趙」という言葉が、ものを元の持ち主へ返す意味でも使われています。一方、現在の日本語では「完璧」を、欠点が一つもないことという意味で使うのが一般的です。
「完璧」はどんなときに使う?例文で確認
できあがったものや、準備、説明、演技などに欠点が見当たらないときに使います。
- 学校:「発表に必要な資料が全部そろっていて、準備は完璧だった」
- 仕事:「提出する前に数字や書き方を確かめ、完璧な報告書を目指した」
- 料理:「焼き加減も味つけもよく、私にとっては完璧な仕上がりだった」
- スポーツ:「選手は練習の成果を発揮し、完璧な演技を見せた」
「完璧に仕上げる」「完璧な説明」「完璧を目指す」という形でも使えます。何がよくできていたのかを一緒に伝えると、相手にも評価の理由が分かります。
「完全」「完全無欠」との違いは?
「完璧」と「完全無欠」は、どちらも欠点や不足がないことを表し、意味がよく重なります。「完全無欠」は、欠点がまったくないことをよりはっきり強調する言い方です。
「完全」は、必要な条件や部分が欠けずにそろっていることを広く表します。「完璧」は、欠点のない優れた仕上がりをほめる場面にもよく使われます。ただし、きっちりした境目があるわけではなく、同じ場面で言い換えられることもあります。
また、「完璧を期す」は、失敗や不足がないようにしようとする意味です。言った時点で、すでに完璧になったと決まるわけではありません。
「完璧」を「完壁」と間違えそうになったら、藺相如が守ったのは建物の壁ではなく、大切な宝玉だったという故事を思い出してください。玉を表す「璧」が、正しい漢字です。