「覆水盆に返らず」と「後悔先に立たず」の違いは?

言葉・日本語
ソボチエ編集部

「覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)」と「後悔先に立たず(こうかいさきにたたず)」は、どちらも、終わったことをあとから取り消すのは難しいという意味のことわざです。

違いは、「覆水盆に返らず」は元に戻せない出来事そのものに、「後悔先に立たず」は済んだことを悔やむ気持ちと、事前によく考える大切さに重点があることです。似た場面で使えますが、何を伝えたいかで使い分けられます。

二つのことわざの意味はどう違う?

小学館の『デジタル大辞泉』では、両方が似た意味の言葉として挙げられています。基本的な意味は重なりますが、伝わる印象には次のような違いがあります。

  • 覆水盆に返らず:一度してしまったことは元どおりにできない。取り消せない結果に注目する。
  • 後悔先に立たず:終わってから悔やんでも取り返しがつかない。悔やむ前によく考えて行動しよう、という戒めにもなる。

例えば、勢いで人を傷つける言葉を言ってしまったとき、発言した事実を消せないことを表すなら「覆水盆に返らず」です。「あんなことを言わなければよかった」と後悔することに重点を置くなら「後悔先に立たず」が合います。

「覆水盆に返らず」は何をたとえている?

「覆水」は、器からこぼれた水のことです。「盆」は、ここでは水を入れる浅い器を指します。いったんこぼれた水を、こぼす前とまったく同じ状態には戻せないことから、一度したことは取り返しがつかないという意味になりました。

『デジタル大辞泉』と漢字ペディアでは、もともと別れた夫婦の仲が元どおりにならないというたとえとしても説明されています。現在は夫婦の別れだけでなく、取り消せない発言や行動などにも使われます。

例えば、「人前で秘密を話してしまった。覆水盆に返らずで、話した事実は消せない」という使い方です。重要なのは、起きたことをなかったことにはできないという点です。

「後悔先に立たず」は何を伝えている?

「後悔」は、終わったことをあとから悔やむことです。「後悔先に立たず」は、失敗してから「ああすればよかった」と考えても、すでに起きたことは変えられないという意味です。

日本漢字能力検定協会の漢字ペディアは、あとで悔やまないように、前もってよく考えて行動するよう促す戒めだと説明しています。小学館の『ことわざを知る辞典』でも、失敗したあとに反省しながら用いる場合が多いとされています。

例えば、「締め切りを確認せずに応募しそびれた。早く調べておけばよかったが、後悔先に立たずだ」という使い方です。さらに、まだ行動する前にも「後悔先に立たずというから、申し込む前に条件をよく読もう」と注意を促せます。

同じ出来事でも言い方を変えられる

同じ失敗についても、何を強調するかで二つのことわざを使い分けられます。

例えば、友達に腹を立て、思わずひどいことを言ってしまった場合を考えてみましょう。

  • 取り消せない事実を伝える:「あの一言は、もう言わなかったことにはできない。覆水盆に返らずだ」
  • 悔やむ気持ちを伝える:「あんな言い方をしなければよかった。後悔先に立たずとはこのことだ」

前者は、口に出した言葉を元に戻せないことを、後者は、言ったあとで悔やんでいることを中心にしています。どちらか一方だけが正解というわけではありません。

また、「覆水盆に返らず」は、何も改善できないという意味ではありません。言葉を口にした事実は消せなくても、謝ったり今後の行動を改めたりすることはできます。

事前の注意にはどちらが向いている?

これから行うことに対して、失敗しないよう注意を促すなら、「後悔先に立たず」の方が意味を直接伝えやすいでしょう。

  • 「後悔先に立たずというから、大切な連絡を送る前に内容を読み直そう」
  • 「後悔先に立たずだから、約束する前に予定を確かめておこう」

もちろん、「覆水盆に返らずというから、言葉を口にする前に考えよう」と使うこともできます。ただし、こちらは「取り消せなくなる結果」を思い浮かべさせる言い方です。後から悔やまないための心構えをはっきり伝えたいなら、「後悔先に立たず」が選びやすくなります。

二つのことわざは由来も違う

「覆水盆に返らず」は、中国の書物に伝わる太公望(たいこうぼう)と別れた妻の故事に結びついています。出世した太公望に元の妻が復縁を求めたとき、太公望が器の水を地面にこぼし、それを元に戻せたら願いを聞くと答えた、という話です。小学館の『デジタル大辞泉』は、出典として『拾遺記(しゅういき)』を挙げています。

一方、「後悔先に立たず」は、何かをしたあとの悔いを表す言い回しです。『精選版 日本国語大辞典』には、鎌倉時代の仏教説話集『沙石集(しゃせきしゅう)』の1283年の用例が紹介されています。集英社の『会話で使えることわざ辞典』も『沙石集』を出典に挙げています。

1283年は辞書に載る古い使用例の年代であり、ことわざがその年に作られたという意味ではありません。このように、二つの言葉は由来が異なりますが、現在はどちらも、過ぎたことを取り戻せない場面で使われます。

相手に使うときは責める言い方にならないように

失敗して落ち込んでいる人に「覆水盆に返らず」「後悔先に立たず」と言うと、相手によっては、取り返しがつかないと責められたように感じるかもしれません。

自分の反省を表すときは使いやすい言葉ですが、相手を励ましたいときは「今からできることを考えよう」「次はどうすればよいか一緒に考えよう」と、直接伝える方が適切な場面もあります。

二つのことわざはどちらも失敗のあとに使えます。元に戻せない結果を表すなら「覆水盆に返らず」、あとから悔やむことや事前の注意を強調するなら「後悔先に立たず」と覚えると使い分けやすいでしょう。

参考資料