「破天荒」の意味は?豪快な人という意味ではない?
「破天荒(はてんこう)」は、本来、これまで誰もできなかったことを初めて成し遂げること、またはそのような様子を表す言葉です。単に「豪快な人」「大胆で型破りな人」という意味ではありません。
ただし、現在は「豪快で大胆」という意味で受け取る人が多く、その使い方も広まっています。「破天荒な人」と言われたとき、何を指しているのかは前後の話によって変わります。
「破天荒」の本来の意味は「誰も成し得なかったことをする」
小学館の『デジタル大辞泉』と『精選版 日本国語大辞典』は、「破天荒」を、それまで誰もできなかったことを初めて行うことや、前例のないことと説明しています。「前代未聞」「未曽有」といった言葉にも近い意味です。
例えば、長い間誰も成功できなかった研究を初めて成功させたときに、「破天荒な成果を上げた」と表すことができます。これまで不可能だと考えられていた方法を初めて実現したなら、「破天荒な試み」と呼ぶこともできます。
ここで大切なのは、行動の派手さではなく、前例のないことを初めて実現したかどうかです。静かでおとなしい人であっても、誰も成し得なかった成果を上げたなら、本来の意味で「破天荒」と表せます。
「豪快な人」「大胆な人」との違いは?
「豪快」は、勢いがあり、細かなことにこだわらない様子を表します。「大胆」は、思い切りがよく、物事を恐れずに行う様子です。一方、「破天荒」の本来の意味では、どんな性格かよりも、何を成し遂げたかが重要です。
- 破天荒:これまで誰もできなかったことを初めて実現すること。
- 豪快:勢いがあって、おおらかな様子。
- 大胆:思い切って行動し、恐れずに取り組む様子。
例えば、周囲が驚くような派手な行動をする人でも、それだけで本来の意味の「破天荒」とは言えません。反対に、目立たない人が前例のない大きな成果を出した場合は、「破天荒な人物」と表せることがあります。
つまり、「破天荒」は人に使ってはいけない言葉なのではありません。単に性格が豪快だというだけなのか、誰もやっていないことを実現した人物なのかを区別する必要があります。
「破天荒」は中国の試験にまつわる故事が由来
「破天荒」は、中国の唐の時代に伝わる話から生まれた言葉です。
当時の中国には、役人になる人を選ぶ「科挙(かきょ)」という試験がありました。荊州(けいしゅう)という地域からは、長い間その試験の合格者が出ていなかったと伝えられています。
そこで荊州は、まだ切り開かれていない荒れ地を意味する「天荒」と呼ばれていました。ところが、劉蛻(りゅうぜい)という人が初めて合格します。その出来事を「天荒を破った」と表したことが、「破天荒」の由来です。
『デジタル大辞泉』や『精選版 日本国語大辞典』には、中国の古い書物『唐摭言(とうせきげん)』『北夢瑣言(ほくむさげん)』に記された話として、この由来が紹介されています。
それまで誰も成し得なかったことを実現して、未開の状態を切り開いたという話から、前例のないことを初めて行う意味になりました。
なぜ「豪快で大胆」という意味で広まったの?
「破天荒」という漢字を見ると、「破る」や「荒れる」といった力強い印象を受けるかもしれません。しかし、言葉の由来にある「天荒」は、空を荒らすことではなく、開かれていない土地を表しています。
辞書編集者の神永曉さんは、「破」や「荒」という漢字から受ける印象が、「豪快」「大胆」という意味に結び付いたのではないかと説明しています。これは、意味が広まった理由についての一つの考え方です。
例えば、テレビなどで「破天荒な芸人」「破天荒な生き方」と紹介されると、前例のない業績よりも、思い切った言動や自由奔放な性格を思い浮かべることがあります。そのような受け取り方と本来の意味には違いがあります。
文化庁の調査では「豪快で大胆」が65.4%
文化庁の令和2年度「国語に関する世論調査」は、2021年3月に実施されました。「破天荒」の意味を尋ねた結果は次のとおりです。
- 「だれも成し得なかったことをすること」:23.3%
- 「豪快で大胆な様子」:65.4%
- 「両方の意味」:6.5%
本来の意味とされてきた方を選んだ人は約4人に1人で、「豪快で大胆」を選んだ人は約3人に2人でした。年齢別でも、どの年代でも「豪快で大胆」を選ぶ人の割合が上回っています。
平成20年度の調査では、本来の意味が16.9%、「豪快で大胆」が64.2%でした。ただし、平成20年度は面接調査、令和2年度は郵送調査です。調査方法が異なるため、数字だけを比べて意味の理解が変化した割合を判断することはできません。
「豪快」という意味で使うのは誤用なの?
「豪快で大胆」は、辞書などで本来の意味とされてきた説明とは異なります。一方、文化審議会国語分科会が2018年にまとめた報告では、「破天荒」の「豪快で大胆な様子」を「新しく生じた意味」として挙げています。
同報告では、言葉の使われ方は変化することがあり、広く用いられる新しい意味を一方的に退けるのは行き過ぎだという考え方が示されています。ただし、これは「破天荒」の本来の意味がなくなったということではありません。
現在の使い方を知るとともに、本来の意味を大切にする人にも伝わるように言葉を選ぶことが大切です。
意味をはっきり伝えたいときの言い換え
「破天荒な人」という表現だけでは、初めて偉業を成し遂げた人なのか、豪快な性格の人なのかが分かりにくい場合があります。伝えたい内容に合わせ、次のように言い換えると明確になります。
- 前例のない成果なら「これまで誰も成し遂げなかった」「前人未到の成果を上げた」
- 豪快な性格なら「豪快な人」「おおらかで勢いのある人」
- 大胆な行動なら「思い切りのよい人」「常識にとらわれない行動をする人」
「破天荒」を使うときは、その人の行動が派手だったのか、それとも誰も成し得なかったことを実現したのかを考えると、言葉の意味をより正確に伝えられます。