「情けは人のためならず」の意味は?誤解されやすいことわざ

言葉・日本語
ソボチエ編集部

「情けは人のためならず」は、人に親切にすると、そのよい行いが巡り巡って自分にも返ってくるという意味のことわざです。「人を助けると、その人のためにならない」という意味ではありません。

「人のためならず」という言葉から、親切にしない方がよいという意味に受け取りやすいのですが、もともとは人への思いやりを大切にすることを教える言葉です。

「情けは人のためならず」の本来の意味

小学館の『デジタル大辞泉』では、人に親切にすれば、相手のためになるだけでなく、やがて自分にもよい報いが返ってくることと説明しています。『ことわざを知る辞典』も、他人にかけた情けが巡り巡って自分のためになるとしています。

ここでいう「情け」は、困っている人への思いやりや親切のことです。誰かを助けることで相手が救われ、それが人と人との助け合いにつながって、いつか自分にもよいことが返ってくるという考え方です。

例えば、近所の人が困っているときに手を貸したら、別の日に自分が困ったとき、周りの誰かが助けてくれるかもしれません。直接お礼をしてもらうことだけを指しているわけではありません。

このことわざは親切を勧める教えであって、親切にすれば必ず同じ相手からお返しをもらえる、という約束ではありません。

「人のためにならない」という意味ではない

よくある誤解は、「情けをかけると相手が甘えてしまい、かえってその人のためにならない」というものです。しかし、これは本来の意味とは反対の受け取り方です。

  • 本来の意味:人に親切にすると、その親切が巡り巡って自分のためにもなる。
  • 誤解されやすい意味:人に親切にすると、その人の自立を妨げてしまう。

例えば、友人が困っているときに「情けは人のためならずだから手伝おう」と言えば、本来の意味に合っています。反対に「情けは人のためならずだから、困っていても助けない方がいい」と言うのは、このことわざの意味に合いません。

もちろん、相手のためを思って手を出しすぎない方がよい場面もあるでしょう。ただし、それは親切の仕方を考える別の問題です。「情けは人のためならず」の教えと混同しないことが大切です。

「ためならず」の「ならず」はどういう意味?

誤解が生まれやすい理由は、「ためならず」の読み取り方にあります。

「人のためにならず」なら、「人のためにならない」と読めます。しかし、ことわざは「人のためならず」で、「ため」の後に「に」がありません。

文化庁は、この「ならず」は、古い言い方の「なり(~である)」を打ち消したものだと説明しています。つまり「人のためではない」という意味になります。

ただし、ここで「相手には何の利益もない」という意味に受け取ってはいけません。「相手のためだけではなく、巡り巡って自分のためにもなる」という意味を含んでいるのです。

「ならず」を現代の「~にならない」と同じように考えてしまうことが、意味を取り違える一因です。

どんな場面で使う?身近な例文

このことわざは、見返りを求めずに親切にすることや、周りの人と助け合う大切さを伝えたい場面で使えます。

  • 「道に迷っている人に声をかけた。情けは人のためならずだね」
  • 「忙しい同僚を手伝おう。情けは人のためならずというからね」
  • 「困っている人にはできる範囲で手を貸したい。情けは人のためならずだと思う」

自分の利益のために親切を計算するというより、思いやりのある行いが人とのつながりを育て、回り回って自分の助けにもなる、という気持ちを表す使い方です。

文化庁の調査では二つの受け取り方がほぼ半々

文化庁の令和4年度「国語に関する世論調査」では、「情けは人のためならず」がどちらの意味だと思うかを尋ねています。2023年1月から3月に行われた調査の結果は、次のとおりです。

  • 「人に情けを掛けておくと、巡り巡って結局は自分のためになる」:46.2%
  • 「人に情けを掛けて助けることは、結局はその人のためにならない」:47.7%
  • 「両方の意味」:3.9%

本来の意味とされる方を選んだ人と、異なる意味を選んだ人の割合はほぼ同じでした。この調査は意味をどう理解しているかを尋ねたもので、実際にどちらの意味で使ったかを調べたものではありません。

平成22年度の調査でも、本来の意味が45.8%、異なる意味が45.7%でした。平成12年度では、それぞれ47.2%と48.7%でした。ただし、令和4年度は郵送、過去の調査は面接で、選択肢にも違いがあります。数字だけで意味の理解がどれほど変化したかを判断することはできません。

昔から使われてきたことわざなの?

『精選版 日本国語大辞典』には、「情は人の為ならず」の古い用例として、14世紀後半の軍記物語『太平記』が紹介されています。

このことわざは、最近になって「人への親切は自分のためになる」という意味に変わったわけではありません。古い用例にも、人に情けをかけたことが後になって自分への助けとなる考え方が見られます。

『ことわざを知る辞典』では、この考え方の背景として、よい行いにも悪い行いにもそれに応じた結果が返ってくるという、仏教の「因果応報」にも触れています。

「情が仇」とはどう違う?

「親切にしたことが、かえって相手に悪い結果をもたらす」という意味を伝えたいなら、「情が仇(なさけがあだ)」という別の言葉があります。

『精選版 日本国語大辞典』では「情が仇」を、好意からしたことが逆に相手のためにならない結果になることと説明しています。

例えば、本人が自分でできる仕事まで周りが毎回代わりに行い、かえって覚える機会を失わせてしまったような場合です。「親切のつもりが情が仇になった」と表せます。

「情けは人のためならず」は親切が巡り巡って自分のためにもなること、「情が仇」は親切が逆効果になることです。伝えたい内容に合わせて言葉を選ぶと、誤解を避けられます。

参考資料