「覆水盆に返らず」の意味は?由来と使い方

言葉・日本語
ソボチエ編集部

「覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)」は、一度してしまったことは、あとから元どおりにできないという意味のことわざです。こぼれた水を、こぼれる前とまったく同じ状態で器に戻せないことにたとえています。

もともとは、一度別れた夫婦の関係は元に戻らないという中国の故事に由来します。現在は、取り消せない言動や、取り返しのつかない失敗などにも使われています。

「覆水盆に返らず」は一度したことを元どおりにできないという意味

小学館の『デジタル大辞泉』は、「覆水盆に返らず」について、一度別れた夫婦の仲が元どおりにならないこと、転じて一度したことは取り返しがつかないことのたとえと説明しています。

日本漢字能力検定協会の「漢字ペディア」でも、一度した失敗は取り戻せないことや、離婚した夫婦が元の仲に戻れないことを表すとされています。

例えば、感情的になって相手にひどい言葉を言ってしまったとします。あとから謝って関係を修復することはできても、相手がその言葉を聞いたという出来事自体は消せません。こうした、起きてしまった事実をなかったことにはできないという場面で使います。

由来は太公望と別れた妻にまつわる中国の故事

由来としてよく紹介されるのは、中国の太公望(たいこうぼう)と、かつての妻との話です。太公望は呂尚(りょしょう)という人物の呼び名です。

伝えられている話では、呂尚がまだ貧しかったころ、読書にふけって暮らしを顧みなかったため、妻は離縁して家を出ました。

その後、呂尚は高い地位に就きます。すると、別れた妻が戻ってきて、もう一度夫婦になりたいと求めました。そこで呂尚は、器に入った水を地面にこぼし、「この水を元の器に戻せたら、願いを聞こう」という趣旨のことを言って、復縁を断ったと伝えられています。

この話では、こぼしてしまった水を元どおりには集められないことが、一度別れた夫婦の関係に重ねられています。そこから、夫婦の別れだけでなく、取り返しのつかない出来事全般を表すようになりました。

ただし、これは古い書物に伝えられた故事です。『デジタル大辞泉』は『拾遺記(しゅういき)』を挙げ、『故事成語を知る辞典』は『野客叢書(やかくそうしょ)』にある話として紹介しています。前漢の朱買臣(しゅばいしん)にまつわる似た話もあり、物語の細部や典拠には異なる伝え方があります。

「覆水」と「盆」は何を表している?

「覆水(ふくすい)」とは、ひっくり返した器などからこぼれた水のことです。「盆(ぼん)」は、ここでは食器を運ぶ平たいお盆ではなく、水を入れる鉢のような器を指します。

小学館の『ことわざを知る辞典』では、浅めの素焼きの容器だと説明されています。また、日本漢字能力検定協会の「漢字カフェ」では、中国語の「盆」が洗面器のような容器を表すこともあると紹介されています。

つまり、器からこぼれた水が、何もしなくても元の器へ戻ることはないというたとえです。「覆水盆に帰らず」ではなく、「覆水盆に返らず」と書くのが一般的です。人が家に帰る話ではなく、水が元の器へ戻るという意味だからです。

どんなときに使う?身近な例文

何かをしてしまったあと、元の状態には戻せないことを伝えるときに使います。

  • 人との会話:「勢いで傷つく言葉を言ってしまった。覆水盆に返らずだから、発言には気を付けたい」
  • 失敗:「大切な資料を確認せずに処分してしまった。覆水盆に返らずだと後悔した」
  • 約束:「一方的に約束を破って信用を失った。覆水盆に返らずという言葉が身にしみる」
  • 人間関係:「あのときの決定的な別れについて、覆水盆に返らずだと感じている」

「覆水盆に返らずだから、口に出す前によく考えよう」のように、同じ失敗を防ぐための教訓として使うこともできます。

「もう何もできない」という意味ではない

このことわざは、過去の出来事を完全になかったことにはできないというたとえです。失敗したあとに、必ず何も取り戻せなくなるという意味ではありません。

例えば、失礼な言葉を口にした事実は消えませんが、謝ったり、行動を改めたりして、関係がよくなる可能性はあります。失敗そのものを取り消すことと、その後にできることは別です。

また、「一度別れた夫婦は絶対に復縁できない」という現代の事実を示す言葉でもありません。もとの故事では夫婦の別れをたとえていますが、実際の人間関係がどうなるかまで決めるものではないのです。

人を責めるために「覆水盆に返らずだ」と言い切るよりも、自分の言動を振り返り、今後に生かす場面で使うと意味が伝わりやすくなります。

参考資料