「矛盾」の語源は?盾と矛から生まれた言葉の由来
「矛盾(むじゅん)」は、二つの話や考えが食い違い、両方を同時に正しいとはいえないことを意味します。
語源は中国の古典『韓非子(かんぴし)』にある、矛(ほこ)と盾(たて)を売る人の話です。「どんなものでも突き通す矛」と「どんなものでも防ぐ盾」を同じ人が自慢したため、二つの説明が両立しないことを指摘されました。
「矛盾」は話のつじつまが合わないという意味
小学館の『デジタル大辞泉』は、「矛盾」を二つの物事が食い違って、つじつまが合わないことと説明しています。日本漢字能力検定協会の「漢字ペディア」でも、前後の話が食い違い、論理が合わないこととされています。
例えば、同じ日の会議について、ある人が「全員出席していました」と話したあと、「一人欠席していました」とも言った場合です。どちらも同じ会議についての説明なら、二つの話は合いません。
このように、同じことについての説明が、互いに食い違うときに「矛盾している」と言います。会話だけでなく、文章、決まり、言葉と行動の関係などにも使えます。
「矛」と「盾」はどんな道具だったの?
「矛盾」の二つの漢字は、もともと別々の武器を表します。
- 矛(ほこ):長い柄の先に鋭い刃がついた、相手を突くための武器です。
- 盾(たて):相手の矢や槍などの攻撃を受け止め、身を守るための道具です。
矛は攻撃するため、盾は攻撃を防ぐために使います。漢字ペディアでも、このような武器の意味が説明されています。
昔の文献では「盾」を「楯」と書くこともあり、『韓非子』の原文にも「楯」という字が使われています。現在の言葉としては「矛盾」と書くのが一般的です。
語源は『韓非子』「難一」にある故事
「矛盾」の由来となる話は、中国の戦国時代の思想を伝える書物『韓非子』の「難一(なんいつ)」に記されています。舞台は中国の楚(そ)という国です。
商人が「絶対に突き通せない盾」を売っていた
ある商人が、矛と盾を売っていました。商人はまず、自分の盾をほめて、「この盾はとても頑丈で、どんなものでも突き通せない」と言いました。
つまり、どれほど鋭い武器で攻撃されても防げる、という自慢です。
今度は「どんなものでも突き通す矛」を自慢した
続いて商人は、自分の矛をほめました。「この矛はとても鋭く、突き通せないものは何もない」と言ったのです。
どんなに硬い盾でも貫ける矛と、どんな武器にも貫かれない盾。その両方を、同じ商人が売り物としてほめていました。
客の質問に、商人は答えられなかった
そこへ、話を聞いていた人が「それでは、あなたの矛で、あなたの盾を突いたらどうなるのですか」と尋ねました。
すると商人は、何も答えられなくなってしまいました。『韓非子』には、商人が返答できなかったことまでが記されています。実際に矛で盾を突いた結果が書かれているわけではありません。
なぜこの話が「つじつまが合わない」という意味になったの?
客の質問を考えると、商人の言い分のおかしなところが分かります。自分が売る矛と盾を、実際にぶつけたと仮定してみましょう。
- 矛が盾を突き通した場合:「どんなものでも防ぐ盾」という説明が間違いになります。
- 盾が矛を防いだ場合:「どんなものでも突き通す矛」という説明が間違いになります。
どちらの結果になっても、商人の二つの自慢を同時に正しいとはいえません。このように、一つが正しければ、もう一つが成り立たないことが「矛盾」の中心にある考え方です。
『韓非子』では、この話に続いて、二つの言い分を同時に認めることのおかしさが論じられています。もともと矛と盾の話は、言葉のつじつまを確かめるためのたとえだったのです。
日常での使い方と例文
説明と説明が食い違う場合だけでなく、言ったことと実際の行動が合っていない場合にも使えます。
- 学校:「先生は全員が宿題を提出したと言ったけれど、まだ提出していない人がいる。説明が矛盾しているね」
- 仕事:「資料には『今月は休業しない』と書いてあるのに、別の案内には『今月の水曜日は休業』とある。二つの案内に矛盾がある」
- 会話:「さっきは『昨日は家にいた』と言っていたのに、今は『昨日は一日中外出していた』と言っている。話が矛盾しているよ」
- 行動:「ごみを減らしたいと言いながら、使えるものを次々に捨てていたら、言葉と行動が矛盾している」
「矛盾がある」「矛盾している」「説明の矛盾を指摘する」「言動に矛盾が生じる」などの形で使えます。どの話とどの話が合わないのかを具体的に示すと、相手にも伝わりやすくなります。
意見が違うだけでも「矛盾」になる?
人によって考えや好みが違うだけなら、必ずしも矛盾とはいえません。例えば、一人が「私は赤が好き」と言い、もう一人が「私は青が好き」と言っても、それぞれの好みを話しているだけです。
また、昨日は晴れていて今日は雨が降ったとしても、日時が違うので、二つの説明は両立します。
「矛盾」は、同じ事柄を同じ条件で考えたときに、両方の説明が成り立たないことを表します。単なる意見の違いと区別すると、使い方を間違えにくくなります。
「自己矛盾」「自家撞着」との違い
「自己矛盾(じこむじゅん)」は、同じ人の考えや行動が食い違い、つじつまが合わなくなることです。漢字ペディアにこの意味が掲載されています。
似た意味の「自家撞着(じかどうちゃく)」は、自分の発言や文章などが、前後で矛盾していることを表します。
- 矛盾:複数の説明や事柄が食い違うことを広く表す。
- 自己矛盾・自家撞着:一人の人の考え、発言、行動などの中に食い違いがあることを中心に表す。
「矛盾」は、二人の話の食い違いにも、自分の発言の食い違いにも使えます。自分自身の中で話が合わないことを強調したいときには、「自己矛盾」や「自家撞着」という言い方もできます。
「矛盾」という身近な言葉は、矛と盾を売る商人の二つの宣伝が、同時には成り立たなかった故事から生まれました。何かを「矛盾している」と言うときは、どの二つの内容が食い違っているのかを確かめましょう。